スペクトル分布と形状の同時計測



1 背景

現在の非接触型三次元形状計測装置,例えば本学にあるCyberwareは,レーザレンジファインダとCCDカラーカメラから構成されるもので,形状データと表面データ(RGBカラーデータ)の対応のとれたものが同時に取得できる装置である.これはアパレル,ゲームのキャラクタデザイン等,様々な分野で利用されているが,その中の一つに,歴史的価値のある茶器や壷のような置物をこの装置で計測し,得られたデータをデジタル保存する電子博物館がある.
ここで色情報に注目すると,鑑賞用として用いるならばRGBデータで十分であるが,現実の色というのは連続的なスペクトル分布であるため,色の成分解析まで行いたいというときにはRGBデータでは不十分であり,特に電子博物館のように後世にデータを残していくのならば,学術的な調査に耐えうる詳細な色情報を測定しておく必要があると考えられる.
そこで本研究では,CCDカラーカメラの代りにイメージ分光器を取りつけたモノクロCCDカメラを用いて,物体の形状と同時に表面のスペクトル分布を計測するシステムを提案する. 本システムを用いて形状データとスペクトル分布の対応の取れたものを取得すろことで,物体の形状をふまえながらの色の解析ができ, 例えば,劣化した茶器の表面紋様を後日,復元・修復する際に,当時使われていた染料の推定等が可能となってくる.


2 システム構成


本システムはイメージ分光器を取りつけたモノクロCCDカメラと液晶プロジェクタ,そして計測対象を乗せるターンテーブルより構成される(図1).


図1: システム構成



2.1 イメージ分光器

イメージ分光器とはレンズとカメラの間に取りつけて用いる分光器であり,分光器のスリットに入射した1ラインの光をプリズムによりスリットに垂直な方向に分光させて,取りつけたカメラのCCD面に投射することで,1ラインの各点ついてのスペクトル分布を画素値として得ることができる.
本研究では可視光域400nm〜700nmの光を分光可能なデルフトハイテック社のImSpectorを用いた(図2).


図2:イメージ分光器

図3にイメージ分光器を用いて得られた画像を示す. サンプルの縦一ラインを分光して得られたものが右の画像である. RGB三次元のカラーデータに比べ,画像の波長軸方向の解像度と等しい次元のデータを得ることができる.
また,物体全周のスペクトルデータを得るために,物体をターンテーブルに乗せて,分光器のスリットがターンテーブルの回転軸と一致するように縦に設置し,一定回転角ごとに計測を行った.


図3:所得画像



2.2 形状計測

形状はカメラの上方に設置した液晶プロジェクタから測定対象物体にパターン光を回転軸に垂直になるように投影し,物体からの反射光をカメラ側で計測することで,三角測量の原理より求めることができる.本システムでは計測の高速化のためにグレイコードパターン投影法を用いた. パターンの投影ごとに,プロジェクタからの投影空間を1/2づつ分割し,カメラ側で反射光の明暗パターンを調べることで,物体表面の各箇所におけるプロジェクタからの投影方向が求まる.

つまり,色を取るための反射光と形状を取るための反射光を同じ計測機器を用いて計測し,形状データとスペクトル分布の対応の取れたものを得ることで,その後の位置あわせを容易にすることができる.


3 計測結果

計測対象として図4に示す壷を用いた. 今回は一周360度に対して0.6度間隔で計測を行い,各角度につき480点の三次元座標とスペクトル分布を取得した.

図5が壷の形状を計測した結果をポリゴン表示したものである.

図4:計測サンプル, 図5:ポリゴン表示



3.1 Graphic User Interface

本研究では図6に示すようなGUIを作成し,計測した形状とスペクトル分布を利用者に分かりやすく提示できるようにした.このGUIを用いて行えることを以下に記す.


Figure6:Graphic User Interface



左のスクロールバーで波長を変化させることで,その波長での物体の反射強度を輝度値として表現できる. 図7に波長が501nm,577nmのときの同一視点から見た壷の反射強度を示す. 橙色をしている真ん中の花模様が501nmでは低く,577nmでは高い反射強度を示しているのが分かる.


図7:波長 501nm, 577nmでの反射強度

真ん中と右のスクロールバーでそれぞれ周囲の角度と高さを指定することで,その箇所でのスペクトル分布がグラフ表示される(図8). その際,右端のボタンをオンすることで図8にあるようなポイント が表示され,現在どの箇所を注目しているかが分かるようになっている.


図8:ペクトル分布のグラフ表現



3.2形状計測の精度評価

計測対象として図9の左に示す,表面に白い紙をまいた円筒形物体を用いた.大きさは,直径77mm,高さ142mmである.360度周囲で300回走査を行った結果を点群表示したものを図9の右に示す.そして点群と計測対象の中心軸の位置合わせを行った後,直径の標準誤差を計算した結果は1.206mmであった.


図9:精度評価

物体全体として形状をとらえるならば,この程度の誤差は許容できると考えられる.

4 まとめ

イメージ分光器を用いての三次元形状とスペクトル分布の計測を行った.
GUIを作成し,取得したスペクトル分布を利用者により分かりやすく提示できるようにした.
本手法を用いて形状計測の精度評価を行った結果,良好な形状を得られることが分かった.