北出雅央1), 黒田知宏1), 眞溪歩2), 大城理1), 千原國宏1)
1)奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科
2)東京大学 工学系研究科
概要:
医用超音波画像は,他の医用画像と比較した際に,画像取得が速い,被曝などの
危険性がない,装置自体が比較的安価であるなどの利点があり,内科診断におい
てよく利用される。その反面,画像が他の医療画像に比べて画質が悪く,診断に
際してはある程度の知識と経験を持った熟練者が必要であるという問題がある。
その問題を解消すべく提案され,また近年現実味を帯びてきたのが遠隔診断であ
る。これは,超音波診断装置で取得した画像を,情報通信網を介して伝送するこ
とで先程の問題を解消しようというものである。
診断においては患者側と診断側の円滑なコミュニケーションが必要で,実時間で
超音波画像伝送をしなければならない。その時,膨大なデータを圧縮する必要性
が生まれる。そこで我々は超音波画像の特徴に注目し,情報量の削減を図るため
の超音波動画像圧縮手法を提案する。
本研究では,セクタスキャン超音波画像を用いるが,診断に直接関係するのは超
音波画像が表示される領域のみである。そこで、転送領域は超音波画像領域のみ
とする。また、セクタスキャン超音波画像では、得られる音線データは極座標上
のものとなる。画像をディスプレイに表示する際には、直交座標上に音線データ
から補間が行われている。これは,音線データのみを送ることで超音波画像の再
構成が可能であることを示している。そこで,音線方向の音線データのみを転送
することにより画像情報の冗長性を省き,転送情報量を少なくすることを可能に
している.これにより無圧縮画像と比較すると10分の1程度に圧縮されている.今
後,フレーム間の相関の高さを生かし,より効果的な圧縮手法を提案していきた
.
Masao Kitade1), Tomohiro Kuroda1), Ayumu Matani2), Osamu Oshiro1) , Kunihiro Chihara1)
1)Graduate School of Information Science,
Nara Institute of Science and Technology
2)Graduated School of Engineering, The University of Tokyo
Abstruct: In this paper, we propose a new image compression method for ultrasoundimage sequence tran smitted by tele-echography system.This method is constructed with the extraction of the sound data f rom ultrasound image and the compression of the sound data. The compression procedure to make the be st use of a high correlation between the inter-frames is applied. An experimental result shows the p roposed method has high compressive ability.
Keywords: ultrasound, sound data, Huffman coding, compress
医療超音波画像は,他の医療画像と比較した際に,画像取得が速い(動体のリ アルタイム表示が可能である),被曝などの危険性がない,装置自体が安価で あるなどの利点があり,内科診断においてよく利用される。その反面,画像が 他の医療画像に比べて画質が悪く,診断に際しては十分な知識と経験を持った 熟練者が必要である。現代医療の専門分化の進展する状況下において,十分な 診断の行える熟練者が常駐する施設がそれほど多くないというのが問題となっ ている。
その問題を解消すべく提案され,また近年現実味を帯びてきたのが遠隔診断である。これは,現在多くの医療機関で日常的に使われる超音波診断装置で取得した画像を,情報通信網を介して伝送することで先程の問題を解消しようというものである。 超音波診断装置のリアルタイムで動体表示ができるという長所を生かして診断において患者側と診断側の円滑なコミュニケーションを実現するには実時間で超音波画像伝送をしなければならない。その時,超音波動画像を伝送するにあたり,通信容量の限られた通信回線を使うため膨大なデータを圧縮する必要性が生まれる。そこで我々は超音波画像の特徴に注目し,冗長性の削減を図るための超音波動画像圧縮手法を提案する。
2 超音波画像の特徴と提案する圧縮手法
本研究では,セクタスキャン超音波画像を用いるが,診断に直接関係するのは 超音波画像が表示される領域のみである。そこで、転送領域は超音波画像領域 のみとする。また、セクタスキャン超音波画像は、超音波探触子を扇状に走査 するため、得られる音線データは極座標上のものとなる。画像をディスプレイ に表示する際には、直交座標上に音線データから補間する必要がある。図1に 補間された再構成画像のモデルを示す。音線データは矢印で示すようにあり、 その他の領域は補間領域である。ただし,実際の音線データは図よりも密にあ る。
これは,音線データのみを送ることで超音波画像の再構成が可能であること を示している。そこで,これまでの研究では音線方向の情報のみを転送する ことにより画像情報の冗長性を省き,転送情報量を少なくするという試みが なされており,大きな成果が得られている。しかし,現在一般的な回線の中 で最大の回線容量であるT1回線を想定した場合には,圧縮が十分ではない。 ただし,この時のフレームレートは15としている。
フレームレートの設定は,動きの多い超音波断層像を用いた診断には,フレー ムレートが15以上必要であるという医師の意見を考慮したものである。 これまでの研究で,さらなる圧縮の手法として,フレーム内の相関性を利用し たランレングス圧縮が試みられている。これにより音線情報の抽出された画像 を100としたときに,80程度まで圧縮がされている。理論的には,この時のデー タ量はT1回線でフレームレート15という要求が満たされている。しかし,この 場合には1.5Mbpsの内1.4Mbpsが使われており,回線容量をほぼ占有するという 現状である。今後,同一回線内で他のアプリケーションを使う必要性が生じた とき,または診断風景を伝送した場合などに,回線容量の不足が問題になると 予測される。また,フレームレート15の設定は,最低限のものであり,動きが 大きな臓器の診断の際に重要となる滑らかな動きを実現するためには超音波診 断装置の表示能力であるフレームレート30に近づけて行く必要がある。よって, さらなる圧縮を可能とする手法が必要となる。
ここで,さらに圧縮を可能にするために心臓の超音波断層像ように同様な画像 が繰り返し表示されるためフレーム間の相関性が特に高いという特性に着目す る。まず,連続する2枚の超音波動画像の差分画像を取得し,その輝度値の分 布を示したのが以下の図2である。図2より差分画像の輝度分布の偏りが非常に 大きいことが観察される。輝度値の差分が0となる点が突出して多いことから, 超音波動画像のフレーム間の相関性の高さが裏付けられている。この傾向は, 他の差分画像(心臓の超音波動画像で2秒間のフレーム数である60枚の差分画像) に対しても同じことが観察された。この特性を生かしエントロピー符号化(可 変長符号化)の一種であるハフマン符号化法を適応したのが本研究の手法であ る。
ハフマン符号化法とは,シンボルの生起確率の偏りを利用して,冗長性を削減 する手法である。生起確率の高いシンボルに短い符合を与え,逆に生起確率の 低いシンボルに対して長い符合を与えれば,全体のデータ長を短くすることが できる。今回の場合であれば,上の図からもわかるとおり輝度値の差分が0と いうデータにかなりの偏りが見られる。この場合には,もともと8ビットを使 い表現されている輝度値の差分が0という値を1ビットで表現したならば7ビッ トの節約が可能である。そして,差分画像の輝度値の0が多ければ多いほど大 きな圧縮が見込まれるのである。また,0に近いところに集中しており,使わ れる値の種類が非常に限られている。これも圧縮に大きく反映するポイントで ある。つまり,今回のように特に生起確率の偏りが大きな場合には,ハフマン 符号化方が非常に有効であると言えるのである。
3 実験
ここで,超音波診断装置により得られた連続する心臓の断層像(今回の実験で は,352×240の画像を使用する)に対し,音線情報の抽出を行い,その差分画 像を60枚取得する.以上のようにして得られた画像に対して,ハフマン符号化 を行い圧縮率の検証を行う。そこで,超音波動画像の表示は64階調で表示され ていること,並びに階調を変換し低くすることでに輝度分布の偏りが大きくな ることを考慮し,各階調(8,16,32,64)に対して検証を行う。
4 結果
結果を表1にまとめる。ここでの圧縮率は,圧縮をする前の画像を100とした 時の比率とする。
| - | 64階調 | 32階調 | 16階調 | 8階調 |
|---|---|---|---|---|
| 圧縮率 | 50 | 38 | 28 | 18 |
5 考察
圧縮率について,今回の結果はこれまでの手法(抽出された音線情報のフレーム内のランレングス圧縮,圧縮率は,80程度)を上回る結果が得られている。 しかし,今回の圧縮率の検証に際して,差分画像の再構成時に必要となる元の画像が考慮されていない。
そこで,実際にネットワークを用いて伝送する際にどの程度の圧縮が必要かを 検証する。この検証により,何階調に変換すれば条件または要求を満たすのか を示すものである。
要求仕様:
* 使用する回線はT1回線(1.5Mbps)
* 画像のサイズは320×240
* フレームレートは15以上
* 再構成時に必要となる差分画像でない画像は
15フレーム毎に送る
ただし,この時の'再構成時に必要となる元の画像'はこれまでに使われていた フレーム内のランレングス圧縮(音線情報の抽出画像100に対して80の圧縮)を 用いるとする. 以上のような要求仕様により,各階調で1.5Mbps使うとフレームレートが以下 のようになる。また,フレームレートを15にしたときのT1回線の余剰領域を示 す。
| - | 64階調 | 32階調 | 16階調 | 8階調 |
|---|---|---|---|---|
| フレームレート | 24.2 | 31.8 | 43.2 | 67.2 |
| 余剰領域(Mbps) | 0.91 | 0.71 | 0.55 | 0.39 |
このように,32階調に変換することでフレームレート30が達成されることがわ かった。また,フレームレートを無理に引き上げず,空いた領域を有効に利用 するということも出来ることが確認された。
6 今後の課題
超音波画像は,60枚(心臓の超音波動画像で2秒間のフレーム数)の差分画像を 観察した結果から一般的な動画像よりも差分画像の輝度分布が0近傍に集中し, 輝度分布が0のものに対しては特に片寄った分布がみられる。その特徴を生か して,ハフマン符合のテーブルは予め用意して使っても十分な圧縮ができると 考えられる。符合側と復号側に予めハフマン符合のテーブルを持っておくので ある。つまり,画像毎にハフマン符号化のテーブルを作成する必要がなく,計 算機の処理が軽減される.また,今回は非常に単純なテーブルを用いたのでテー ブル自体が256バイトに満たないものであったが,より効率の良いテーブルを 作ると圧縮したファイルサイズを越えかねないほど大きなものとなる。しかし, 先程の提案のように予めテーブルを持っているならば全くそのような心配は必 要なくなるのである。つまり,より効率的なハフマン符合のテーブルを使いな がらにして,テーブルサイズを考慮する必要が全くないという利点があるので ある。
参考文献
[1] 八木 浩明、眞溪 歩、大城 理、千原 國宏:「遠隔診断における超音波動画像転送」電気学会研究会資料 医用・生体工学研究会MBE-97-15
[2] 安田 浩,渡辺 裕:「ディジタル画像圧縮の基礎」日経BP出版センター
[3] M.ネルソン=著 荻原 剛志,山口 英=訳:「データ圧縮ハンドブック」トッパン