修士論文

超音波リングアレイプローブを用いた血管内3次元可視化

1997年2月14日

近藤 敦士
奈良先端科学技術大学院大学
情報科学研究科 情報処理学専攻

内容梗概

本ページでは,前方3次元情報を実時間で獲得可能な超音波3次元瞬時映像 法について述べる.本手法は,リングアレイプローブによって 超音波球面波パルスを送受波し,走査を行うことなしに 前方の3次元情報を獲得できる手法である. まず,超音波瞬時3次元映像法,実験システムを 構築し,ファントムの厚みの計測,血管の計測を行い, 1mm から 4mmの厚みが再構成できることを確認した.さらに,血管の計測により 血管内に付着させた脂肪を再構成 できることを確認した. 以上の結果から,本手法により,血管内の前方3次元情報を獲得できる 超音波内視鏡への利用の可能性が確認できた.

キーワード

リングアレイプローブ,超音波球面波パルス,動脈硬化,PTCA法, 血管内視鏡
目次
  1. 背景
  2. 3次元瞬時映像法
  3. 実験システム
  4. 実験と結果


1. 背景

動脈硬化はそれ自身重大な疾患であり, 心臓,脳疾患の原因の多くを占めている. 症状 としては動脈内の脂肪沈着, 動脈壁の変性(壁の肥厚,繊維化等)等があり, その結果病変部は拡張もしくは狭窄を起こす. 病変部が拡張を起こした場合,進行すると瘤形成が起こり外科的 治療が必要となる. 一方,狭窄を起こした場合,血液の循環に障害が起こり心・脳血 管疾患へとつながる.軽症の場合は,薬剤の投与 により狭窄部を形成している血栓,脂肪を溶解するが 重症の場合,つまり完全に閉塞している場合は 早急に狭窄物を取り除く必要がある.治療法としてはPTCA (percutaneous transluminal coronary angioplasty) が有名である.これは,まずガイドワイヤと呼ばれる ワイヤを狭窄部に突き通し,高分子の薄膜バルーンを装着した バルーンカテーテルを誘導する.そして狭窄部でバルーンを 拡張することで狭窄物を押し潰し,狭窄部を拡張する治療 法である

開発当初はガイドワイヤの先端は 硬い材質が使用されていたため血管を傷つけない様,慎重な 操作が必要とされた.その後,柔軟な材質を使用することで 操作性は向上したが,脂肪の石灰化などで狭窄物が 硬くなった場合,ガイドワイヤを突き通すことができない という問題が生じた.この問題を解決するために, ガイドワイヤの改良等が研究されているが,新しい方法として ガイドワイヤの代わりにレーザを用いた動脈形成術が考案されている . このとき,血管を傷つけないように, レーザの出力,射出方向には細心の注意を払う必要があり,それらの 決定には血管内の前方情報が必要不可欠である.

本研究では,新たな3次元画像化手法として 超音波3次元瞬時映像法を提案する. この手法では超音波球面波パルスを送波することで1度に広範囲の領域の 情報を獲得できるため計測時間が非常に短いという特徴がある. この手法の応用分野としては拍動する臓器の計測, 血管内の前方3次元計測が考えられる.

超音波3次元瞬時映像法

本研究では 無指向性の超音波球面波を用いることで ,ビーム走査を行うことなく超音波3次元画 像の獲得が可能となる超音波 3次元瞬時映像法 を提案する. 超音波球面波はビームに比べ,かなり広い範囲を照射することが できるため,同じ大きさの計測領域の計測が走査式映像法に比べ, 非常に短い時間で完了する.

1.計測領域を直交量子化し,N個の小領域に分割する.
2.振動子の中から送波子を1つ選び,残りを受波子とする.
3.計測領域に向けて超音波球面波パルスを送波する.
4.受波子でエコーを受波し,エコー信号の強度を保存する.
5.各受波子について,送波子→小領域→受波子のパルス伝播時間を算出する.
6.各受波子で受信したエコー信号からパルス伝播時間に対応する時刻にお ける強度を加算し,和を小領域における輝度値とする.ただし, 小領域が超音波球面波パルスの届く範囲にない場合は加算は 行わない.
7.手順5,6をN個の小領域全てについて行う.
8.別の振動子を送波子に選び,手順3から7を行う.これを全ての振動子について行う.
9.輝度値を256階調に輝度変調する.
10.輝度値に閾値を設定し,3次元像を2値表示する.

3. 実験システム

以下に本研究で使用したリングアレイプローブと実験に 使用したシステムの構成を示す.

4. 実験と結果

狭窄物の代替物の厚み計測

動脈内に沈着した狭窄物(石灰化した脂肪) に近い音響特性を持つ代替物の厚さの計測を行った.

まず,乳酸カルシウムとロウを混ぜ,均一な層を作成した. 層の厚さは1mmづつ変えて1mmから6mmまでのものを用意した. そして,作成した層をリングアレイプローブ の前方7mmに配置し,層の厚みの計測を行った. 計測領域はリングプローブの前方6mmから13mmの斜線部に設 定した.

厚さ2mmの時の再構成画像を以下に示す.表示領域は リングアレイプローブの前方6mm離れた位置から2mm×2mm×5mmの範囲とし, 10×10×50の小領域に分割した.

再構成画像での厚みと 層の実際の厚みの関係を以下に示す. 閾値は30とした.

1mmから4mmの厚みに関しては若干小さめに再構成 されたが高い相関を示している.これは代替物中での音速は水中における 音速よりも速いが,再構成画像では音速を一定としているためである. また,5mmより厚いものは再構成画像では4mm相当,もしくは それ以下の厚みしか再構成されなかった. これは,減衰のために4mmよりも厚いところからのエコーは 取得できなかったためと考えられる.

血管の計測

ホルマリンで固定した人間の腹部の大動脈の1部分を用意し ,中央部を絞ることで狭窄を形成し,さら に狭窄物の代替物の層を付着させ,計測を行った.

再構成画像を以下に示す.

上図における狭窄物の厚みは1.5mmであり, 先に示した再構成画像での厚みと 層の実際の厚みの関係より実際の厚みとの 妥当な一致が得られた.

以上の結果から, 現在市販されている超音波血管内視鏡では 不可能な血管内前方3次元可視化の 本手法により実現の可能性が示された .

血管内の前方情報が獲得できれば,より効果的で,安全性の 高いPTCA法が可能であり, 本手法を用いた超音波血管内視鏡の早期実現が望まれる.