HAIKEI


1.背景

戦後わが国の医療体制は、高度経済成長と共に拡充し1961年に国民皆保険が 達成されると、より多くの国民が医療の恩恵に浴することが可能となった。 しかし、急激な社会構造の変化によって、最近その綻びが目だってきている。 1つは医師人口の地域的な偏在性により、受けられる医療サービスに 差が生じてしまう不平等性であり、もう1つは現代医療の専門分化の進展により、 さまざまな専門家による協議を通じて診断を行う医療支援体制の確立の必要性 である。 これらの問題は、今後わが国が他の先進諸国が経験したことのない 高度の高齢社会へと向かうことを考慮すると、もはや先送りできる状態にはない。

一方、昨今の情報通信技術の目覚しい発達によって動画、音声といったさまざまな 形態の情報を容易に扱うことができるようになり、社会のあらゆる分野において その利用が急速に進んでいる。

そこで医療の分野においてこの先進技術と医療技術を 組み合わせることにより、上記問題の解消を図ろうとする試みが行なわれている。 中でも、最近現実味を帯びて語られることが多くなったものに遠隔医療 が挙げられる。

遠隔医療においては、さまざまなものが挙げられるが、 本研究では遠隔診断方法の1つとして、超音波画像診断に注目した。 この診断方法には、検査実施者の技術差が結果に反映される、再現性が低い、 骨、ガス、肥満等が検査の障害となるといった欠点があるものの、 体内臓器がリアルタイムで映像化可能、小病変の検出が容易、 装置が安価で移動が可能で手軽、検査方向の多様性、 基本的に非侵襲手法である、反復検査が容易であるといった、欠点を はるかに上回る利点があるため、現在、多くの医療機関で日常的に 画像診断が行なわれている。 その普及率は、一般診療所においてですら平成5年時点で36%であり、 特に産婦人科に限っては95%を越えている。 したがって、それらの医療機関をコンピュータネットワークで結ぶことによって、 超音波画像診断は遠隔画像診断に活用することができると考えられる。

超音波画像の大きな利点の1つがリアルタイムでの映像化であることから この点を生かすことが重要である。 しかし、一般的に動画像情報は静止画像にくらべ情報容量が はるかに大きくなくなり、大容量の通信回線が必要になるものの、 先に指摘したように実社会において利用できる回線容量にはある程度、 制限が生じてしまう。 そのため、本研究では2Mbpsの通信回線を通信衛星 JCSAT-1 によって用意し、動画像転送の実用化へ向けた実験を進めることになった。 この2Mbpsの通信回線は欧州規格での ISDN 1次群インターフェイスに相当する。 また、衛星を利用した回線には広域性、同報性、多源接続性、広帯域性、 回線設定の柔軟性および迅速性等といった独自のメリットもある。 ところで、有線無線を問わず全ての通信は遅延の問題が生ずることになるが、 診断は患者と医師の円滑なコミュニケーションによって 成り立つ極めて人間的な行為であるため、この問題は重要である。 さらに遅延時間の問題は、通信衛星を利用した場合、顕著であり、 地上-衛星-地上の延べ回線長は7万Km以上に達するため、電波の伝搬時間だけ で約0.24秒かかってしまう。その上画像通信にも多大な時間がかかるとなると、 将来的に診断側が計測側にある医療機器を遠隔操作して診断を行なうという場合には、 この遅延の問題は安全性の面からも致命的である。 しかし従来本研究室が行なってきた画像転送実験では、遅延時間が大きいため、 この問題に十分対応できてはいない。 よってこの問題点が解消されれば、通常の有線を利用したシステムはもちろん、 回線事情が悪い地域や災害時における通信衛星を利用した 遠隔医療システムにおいてもその実用性が大いに高まると考えられる。 そこで本研究では、臨床利用の一助となるべく、診断に必要なフレーム数を 確保しつつ遅延時間のできるだけ小さい超音波画像転送システムの構築を目的とする。


研究の概要へ戻る


水間 玲(akira-mi@is.aist-nara.ac.jp)