1.はじめに
私たちの周りには色があふれている。その中で、私たちは色を様々な手がかりにして生活を送っている。また、信号の色のように色自体が重要な意味を持つものもある。さらに、美しい、醜いといった美的評価は、色による影響が大きいとされている。
一方、物だけではなく、私たち自身の印象にも色は大いに影響している。顔色や服の色を見て相手の健康状態、趣味などを推測することも多い。自分に似合った色を身につけることは、相手に自分の印象をよく見せるために重要であり、似合う色を身につけていればプラスイメージが強調され、似合わない色を身につけていれば、マイナスイメージが強調されてしまうことになる。
それでは、自分に似合う色はどうやって判断すればよいのだろうか。人間は、その人の持っている感性に基づいて似合う似合わないの判断をする。そこで、正しい判断を行えるようになるには、感性を磨けばよいということになるが、これはなかなか難しい。
カラーコーディネーター、カラーコンサルタントといわれるような色に関するアドバイザリーは専門的な訓練を受けて色に関する感性を磨き、適切な判断を行えるようになる。彼らのように、自分に似合う色をアドバイスしてくれるようなシステムが手軽に利用できれば、服選びや、髪の色を変えたりする際に便利であるし、色に対する感性を磨くこともできるのではないだろうか。
一方、人間と機械の関係は、コンピュータの出現によって大きく変わりつつある。最初、機械は人間の「力の代わり」を果たしてきた。やがてコンピュータの登場によって機械が「思考の代わり」を果たせるようになった。さらに近年では、コンピュータの発展とともにコンピュータが心の世界に足を踏み入れ、「感性の代わり」を果たすことを期待している。
コンピュータは、今まで人間、動物などの知能を持つものでしかなしえなかった「癒す」「楽しませる」といった感性にかかわることを現実に行いはじめている。例えば、人間を癒すために作られたAIBOや、楽しませるために作られたコンピュータゲームなどである。
また、コンピュータは、感性によるアドバイスを研究のレベルにとどまらず実際の生活の中において行うようになってきた。デザイン画等の配色に関するアドバイスシステムがその例である。
本研究では、コンピュータが自動的に似合う色のアドバイスを行うシステムの開発をテーマに取り組んでいる。本研究では、似合う色の診断法として実際に行われているものの一つである、パーソナルカラーシステムに注目している。パーソナルカラーシステムでは、人間の肌の色を4つのグループに分類し、それぞれのグループごとに似合う色が定義されている。このため、診断対象者の肌の色がパーソナルカラーシステムにおいてどのグループに属するかを判断できれば、対象者に似合う色を自動的にアドバイスできると考える。そこで、本研究では、被験者の肌に対して色計測を行い、得られた色情報に基づいて肌の色を4つのグループに分類することを試みる。まず、グループごとに基準の肌色を設定し、相関係数を距離指標としてクラスタリングを行うことによって分類する。次に、ドレイピング時の顔色を主成分分析によって算出した特徴空間にマッピングさせたグループごとの分布の違いを基に分類する。
2.パーソナルカラーとその診断
2.1. パーソナルカラーとは
パーソナルカラーとは文字通り「個人に似合う色」である。この色とは、衣服や周辺環境の色を指す。「似合う色」は人間に、下記のような影響を及ぼすと考えられている。
1. 肌が明るくなる
2. 肌の透明感が増す
3. シミや皺などのトラブルを目立たなくする
4. 個人が持っている魅力が向上する
項目1から3までは、周辺環境の色が肌に映り込み、肌の色の見え方が変化することで起こる。周辺にある色によって、肌の見え方が項目1から3のように変化すれば似合う色で、反対に肌が暗く、くすんだように見えたり、シミ・皺などを目立たせるような色は、似合わない色と言うことができる。項目4は色の持つイメージ自体がその人の印象に影響を与えることで起きる。色の持つイメージがその人の印象をプラスに強調すれば似合う色で、マイナスに作用すれば似合わない色である。
パーソナルカラーシステムは、色の映り込みの影響を考慮して似合う色を決定するために体系化された手法である。つまり、項目1から3のような影響をもたらす色をパーソナルカラーとして決定する手法である。
パーソナルカラーシステムでは、人間の肌の色を4つのグループに分類する4シーズン法が一般的に用いられる。人間の肌の色には基調となる色の概念が存在し、これはアンダートーンと呼ばれている。パーソナルカラーシステムでは、まずこのアンダートーンによる分類で、肌の色をウォーム系とクール系の2種類に分類する。黄みの成分が多い人はウォーム系の肌質であると言い、青みの成分の多い人はクール系の肌質であると言う。さらに、パーソナルカラーシステムでは、ウォーム系とクール系をそれぞれ2つに分類し、最終的に4つのグループに分ける。各グループはシーズンと呼ばれ、ウォーム系の2種類を春・秋、クール系の2種類を夏・冬のシーズンで表現する。ただし、各シーズンの持つイメージは必ずしも四季の各季節の持つ一般的なイメージと一致するわけではない。図1にシーズンごとに、シーズンに属する人にとって似合うとされている色を例示した図を示す。ウォーム系の人に似合う色は黄みの強い色、クール系の人に似合う色は青みの強い色になっている。青みがかった肌の色の人は黄みの強い色を周辺に持ってくると顔色がくすんで不健康そうに見える。これは、絵の具の青色と黄色を混ぜるとくすんだ色になるのと同じ原理である。
2.2. パーソナルカラー診断
パーソナルカラー診断とはパーソナルカラーを決定し、メイクや服飾等のアドバイスを行うものである。パーソナルカラーは前節で述べたような観点から診断対象者の肌の色を分析することで決定する。診断には流派によっていくつかの違いはあるが、基本的に
1. アンダートーンのチェック
2. パーソナリティー・主観色のチェック
3. ドレイピング
4. 虹彩のチェック
5. メイク・服飾等のアドバイス
の順で行う。
パーソナルカラーは、項目1、3、4を行うことで決定する。パーソナルカラー診断では、似合う色とは太陽光の下で見たときの色である、と定義している。このため、診断の際には大きな窓のある部屋で、補助的にデイライトを照明に用いて行う。
3.肌の色の相関係数による分類
3.1. 相関係数
2つの変数がどれぐらい強く関係しているかを知りたいときに用いられる尺度に相関係数がある。
相関係数とは、2つの変数間の関係を表す係数であり、-1から+1までの値をとる。対になった変数(x, y) をx-y 平面に点として表した図(散布図)を描くと2つの変数間の相関が分かりやすい。「x が増加すればy も増加する」と言う場合、を正の相関があるといい、逆に「x が増加すればy は減少する」と言う場合には負の相関があるという。相関係数が-1になる時は完全な負の相関、0になる時は無相関、1になる時は完全な正の相関を意味する。
相関係数の絶対値が1に近ければ2変数間の相関は強くなる。
相関係数は1次元信号の類似度を見るのに適している。本手法では、分光反射率の分布の類似度を比較したいので、相関係数を距離指標に用いる。
3.2. 決定手法
パーソナルカラーシステムでは、各シーズンの肌の色には特徴があるとされ、その特徴を基に診断対象者のシーズンを決定している。故に、各シーズンの特徴を持つ肌色と診断対象者の肌の色を比較することによってシーズンの決定が行えると考えられる。本研究では、シーズンごとに用意した基準の肌色を用い、計測した診断対象者の肌の色がどの基準の肌色に一番近いかを比較することでシーズンの決定を行う手法を提案する。比較に用いる距離指標には相関係数を用いた。
提案手法の手順を図2に示す。まず、診断対象者の肌の色を計測し、分光反射率を算出する。次に、算出した分光反射率と基準の肌色の分光反射率との相関係数をそれぞれ求め、最も正の相関が強い肌色を選び出す。最後に、この基準の肌色が属すシーズンを診断対象者のシーズンに決定する。基準の肌色として肌色パッチと各シーズンの平均値の2種類を用意した。
3.2.1 肌色パッチとの比較
実際のパーソナルカラー診断では、ウォーム系・クール系それぞれの色の肌色パッチを用いてアンダートーンのチェックを行う。肌の色に最も近い色の肌色パッチが属するアンダートーンをその人のアンダートーンとして決定する。この肌質のチェックは人間の視覚によって行う。故に、本手法に
表1 診断士による診断結果と提案手法1の結果
おいても肌色パッチの色と診断対象者の肌の色の比較によってアンダートーンの決定が行えると考えた。
|
被験者 |
診断士による診断結果 |
結果 |
||
|
肌色パッチ |
平均値 |
|||
|
A |
春 |
ウォーム |
ウォーム |
春 |
|
B |
春 |
ウォーム |
ウォーム |
春 |
|
C |
春 |
ウォーム |
ウォーム |
春 |
|
D |
春 |
ウォーム |
ウォーム |
冬 |
|
E |
秋 |
ウォーム |
ウォーム |
冬 |
|
F |
秋 |
ウォーム |
ウォーム |
冬 |
|
G |
秋 |
ウォーム |
ウォーム |
春 |
|
H |
秋 |
ウォーム |
ウォーム |
春 |
|
I |
秋 |
ウォーム |
ウォーム |
冬 |
|
J |
夏 |
クール |
ウォーム |
冬 |
|
K |
夏 |
クール |
ウォーム |
夏 |
|
L |
夏 |
クール |
ウォーム |
春 |
|
M |
夏 |
クール |
ウォーム |
春 |
|
N |
夏 |
クール |
ウォーム |
夏 |
|
O |
夏 |
クール |
ウォーム |
冬 |
|
P |
夏 |
クール |
ウォーム |
秋 |
|
Q |
夏 |
クール |
ウォーム |
夏 |
|
R |
夏 |
クール |
ウォーム |
秋 |
|
S |
冬 |
クール |
ウォーム |
冬 |
|
T |
冬 |
クール |
ウォーム |
夏 |
|
U |
冬 |
クール |
ウォーム |
冬 |
|
V |
冬 |
クール |
ウォーム |
冬 |
|
W |
冬 |
クール |
ウォーム |
春 |
|
X |
冬 |
クール |
ウォーム |
冬 |
|
Y |
冬 |
クール |
ウォーム |
冬 |
|
Z |
冬 |
クール |
ウォーム |
冬 |
|
AA |
冬 |
クール |
ウォーム |
冬 |
|
AB |
冬 |
クール |
ウォーム |
冬 |
そこで、実際の診断で用いられる肌色パッチの分光反射率を用意した。
診断で用いられる肌色パッチはシーズンごとの分類が無く、アンダートーンごとの分類であるため提案手法の結果はアンダートーンが決定されることになる。
3.2.2 各シーズンの平均値との比較
パーソナルカラーシステムでは、人の肌の色で4つのシーズンに分類を行う。また、4つのシーズンの肌の色に特徴があることが確認されている。故に、各シーズンの特徴的な肌色と、診断対象者の肌の色との比較によって、シーズンの決定が行えると考えた。
そこで、基準の肌色に各シーズンの肌の色の平均分光反射率を用意し、比較に用いた。
3.3. 実験
被験者に対して提案手法を用いてシーズンの決定を行った。また、出力結果と実際に診断士が診断したシーズンを比較した。
被験者は28名(内女性21名)である。
3.4. 結果
診断士による診断結果と提案手法による結果を被験者ごとにまとめたものを表1に示す。
表1より、肌色パッチとの比較では、すべての被験者において6番のパッチとの相関が最も強いという結果がでた。これは、用いた肌色パッチが印刷物であることが原因であると思われる。
各シーズン平均値データとの比較では、すべての被験者において一意にシーズンが決定している。また、28名中14名の被験者において提案手法の結果と診断士の診断結果が一致した。本手法を用いると、パーソナルカラーシステムにおけるシーズンの決定が行える。しかし、その結果は実際に行われるパーソナルカラー診断の結果に即しているとは現段階では言えない。
4.顔色変化の主成分分析による分類
4.1. 主成分分析
主成分分析は総合的な指標を統計的に設定し、変数間の関係を把握するための手法であり、データの特徴を主成分を用いて表すことにより、情報の損失を最小限に抑えながらデータの低次元化を行なう手法である。
各主成分が元のデータに含まれる特徴をどの程度表現しているのか、あるいは何個の主成分を採用すれば元のデータに含まれる特徴を知る指標として、寄与率および累積寄与率がある。
4.2. 決定方法
実際のパーソナルカラー診断では、胸元にドレイプと呼ばれる布をあて、顔色変化を見ることでシーズンを決定する。故に、ドレイピング時における顔色変化を見ることによって診断対象者のシーズンの決定が可能であると考えられる。本章では、ドレイピング時における顔色変化のシーズンごとの特徴分布を基にしたシーズンの決定手法を提案する。まず、あらかじめ顔色の変化を的確にとらえるための肌色特徴空間を構築しておく。次に、診断対象者のドレイピング時の顔色を計測し分光反射率を算出する。算出した分光反射率を構築した肌色特徴空間へマッピングさせる。マッピングした顔色の重心を算出し、重心を原点とした時に各軸において各ドレイプを装着時の顔色が正負どちらにくるかを算出する。最後に、診断対象者と各シーズンの特徴的なこの各ドレイプ装着時における顔色の正負分布を比較し、もっとも分布が一致する数の多いシーズンを診断対象者のシーズンとする。
4.2.1 肌色特徴空間の構築
各シーズンの特徴を推定するには、顔色の変化が的確に、また、分かりやすくとらえられることが不可欠である。そこで、ドレイピング時の顔色の変化が的確にとらえられるように3次元の肌色特徴空間を構築する。肌色特徴空間は、一般的な日本人の肌の色が基準になるように、様々な日本人の肌の色の分光反射率から主成分分析によって求める。
4.2.2 各シーズンの特徴
ドレイピング時の顔色変化によってシーズンが決定されるのであれば、各シーズンのドレイプごとの顔色変化に特徴があるのではないかと考えた。そこで、ドレイプ装着時の顔色分布の重心を算出し、この重心を原点とした時に各ドレイプ装着時の顔色が軸ごとに正負どちらに推移するかに各シーズンの特徴が現れると考えた。比較に用いる各シーズンの特徴正負分布は、同じ日に顔色の計測を行った被験者13名(春3名、秋4名、夏4名、冬2名)より算出したものを用意した。
算出方法は、シーズンごとに各ドレイプ装着時の顔色の重心からの距離を平均し、この平均値の正負を分布の値とした。
表2 診断士による診断結果と提案手法2の結果
4.3. 実験
|
|
診断士による診断結果 |
提案手法による結果 |
|
A |
春 |
春 |
|
B |
春 |
春冬 |
|
C |
春 |
春 |
|
D |
春 |
春秋 |
|
E |
秋 |
秋 |
|
F |
秋 |
秋 |
|
G |
秋 |
秋 |
|
H |
秋 |
秋 |
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I |
秋 |
夏 |
|
J |
夏 |
夏 |
|
K |
夏 |
夏 |
|
L |
夏 |
冬 |
|
M |
夏 |
夏 |
|
N |
夏 |
冬 |
|
O |
夏 |
秋 |
|
P |
夏 |
春 |
|
Q |
夏 |
夏 |
|
R |
夏 |
冬 |
|
S |
冬 |
冬 |
|
T |
冬 |
冬 |
|
U |
冬 |
冬 |
|
V |
冬 |
春 |
|
W |
冬 |
春 |
|
X |
冬 |
冬 |
|
Y |
冬 |
夏 |
|
Z |
冬 |
春 |
|
AA |
冬 |
夏 |
|
AB |
冬 |
冬 |
被験者に対して提案手法を用いてシーズンの決定を行った。また、出力結果と実際に診断士が診断したシーズンを比較した。
4.3.1 肌色特徴空間の構築
肌色特徴空間の構築を行った。被験者は性別年齢が様々な45名である。
肌の色の計測
被験者に対して肌の色の計測を行った。被験者には着ている服が肌の色に影響を与えないように胸元に白色の布を装着して
もらい、頬・鼻の頭、額の分光分布の計測を行った。
主成分分析
計測した分光分布から算出した45名分の分光反射率を主成分分析にかけて、第3主成分までを用いた肌色特徴空間を構築した。
4.3.2 顔色の肌色特徴空間の対応づけ
ドレイピング時における顔色の肌色特徴空間への対応付けを行った。被験者は28名(内女性21名)である。
肌の色の計測
被験者にたいしてドレイピング時の顔色の計測を行った。被験者には着ている服が肌の色に影響を与えないように胸元に白色の布を装着してもらい、春9色・夏9色・秋8色・冬10色のドレイプをそれぞれ胸元に装着し頬の分光分布を測定した。
4.3.3 シーズンの決定
提案手法を用いてシーズンを決定した。
4.4. 結果
診断士による診断結果と各主成分の分布の一致数を被験者ごとにまとめたものを表4.4に示す。診断士による診断結果と全ての主成分においての各被験者の正負分布と各シーズンの特徴正負分布が一致した数、提案手法による出力結果をまとめたものを表2に示す。表2より、28名中26名の被験者において一意にシーズンの決定が行えた。
また、28名中15名の被験者において提案手法の結果と診断士の診断結果が一致した。
5.考察
5.1. 相関係数を用いた手法
5.1.1 肌色パッチとの比較
すべての被験者において6番のパッチとの相関が最も強いという結果がでた。これは、用いた肌色パッチが印刷物であることが大きく関係していると思われる。分光反射率は素材の違いが分布に大きく影響する。人間の視覚では同じような色だと判断された色でも、分光反射率曲線では全然違う。このように、分光反射率を用いて色の相関を比べることを考えた場合、素材の違うものを比較対象に用いるのは不適切である。よって、提案手法において肌色パッチと比較する方法はアンダートーンの決定に有効でないと言える。
5.1.2 各シーズンの平均値との比較
各シーズン平均値データとの比較では、28名の被験者すべてにおいて一意にシーズンの決定が行え、28名中14名の被験者において提案手法の結果と診断士の診断結果が一致した。本手法をもちいれば、パーソナルカラーシステムのシーズンの決定が行えるが、その結果は実際のパーソナルカラー診断に即しているとは言えない。本研究から各シーズンの肌の色にはいくつかのパターンが存在する。今後、被験者数を増やし、パターンを明確にし、このパターンごとの分類を試みることによって、パーソナルカラー診断に即したシーズンの決定が可能になると考えられる。
5.2. 主成分分析を用いた手法
5.2.1 肌色特徴空間の構築
第3主成分までの累積寄与率が95%を越えているため、第3主成分までを用いれば情報量の損失が少なく人の肌の色データの復元に十分であると考えられる。しかし、現在ドレイピングによる顔色の変化は分光反射率の分布の中でどこが変化しているのか分かっていない。よって、分光反射率の分布データを主成分分析より求めた肌色特徴空間にマッピングさせた時に情報量の損失が大きいと的確な変化がとらえられない可能性がある。現在、用いている肌色特徴空間は人の肌の色データの復元には十分であることが分かっているが、ドレイプを二次光源とした顔色データ復元に十分であるとは限らない。今回、人の肌の色を基準としてシーズンの決定手法を提案したが、今後、より正確にドレイピング時の顔色を的確にとらえる肌色特徴空間の検討が必要であることも考えられる。
5.2.2 シーズンの決定結果
28 名中26名の被験者においてシーズンの決定が一意に行え、15名の被験者において提案手法の結果と診断士の診断結果が一致した。
2名の被験者においてシーズンの決定が行えなかった。これは、単純に一致数を数えているだけなのでその数が等しくなったからである。各主成分の特徴を加味してシーズンの決定を行う方法をとることで、シーズンの決定は一意に行えるようになると考えられる。
今後、シーズンごとの特徴分布を作成する際のサンプル数を増やすことによってシーズンの特徴が明確化されれば、実際のパーソナルカラー診断の結果に即したシーズンの決定が行えるようになると思われる。
5.3. 全体的な考察
本研究では、提案手法の結果は実際のパーソナルカラー診断の結果に即したものではなかった。その原因として
1.1人の被験者に対する計測が1回である
2. 被験者数が少ない
3. 教師データとして用いた診断士の結果が1人の診断士から得たものである
4. 用いたドレイプセットが1つであること
があげられる。
項目1 は、計測ミスにより結果が変わってくるからである。また、本論文では計測に非接触型の分光放射計を用いた。これは、ドレイピング時の顔色を計測するために、接触型では顔色変化が計測出来ないためであるが、非接触型での計測には光源の影響を完全に取り除くことができないという欠点がある。ドレイピング時における顔色の計測には不向きだが、肌の色の計測には接触型の分光放射計
を用いることで安定した計測ができると考えられる。項目2は、被験者数が少ないと十分な統計が得られないため比較基準の作成に影響するからである。項目3、4は、パーソナルカラー診断にはいくつかの流派が存在し、流派によって診断結果に違いが見られる可能性があるためである。
今後、これらの原因を改善することによって、実際のパーソナルカラー診断に即したシーズンの決定が可能であると考えられる。
6.結論
本論文では、パーソナルカラー診断を自動化するにあたり、二つのシーズン決定手法を提案した。
まず、相関係数を用い、診断対象者の肌の色をクラスタリングする手法を提案し、実際に被験者に対してシーズンの決定を行った。その結果、実際のパーソナルカラー診断に即したものではなかったが、すべての被験者に対して一意にシーズンの決定が行えた。また、この結果はパーソナルカラー診断におけるシーズンの決定が診断対象者の肌の色を基に行われていることを裏付けており、改良を行えば実際のパーソナルカラー診断に即したシーズンの決定も可能であることが示唆された。
次に、主成分分析を用いて作成した肌色特徴空間にドレイピング時の顔色をマッピングさせ、その分布と各シーズンの特徴分布を比較することによってシーズンを決定する手法を提案し、実際に被験者に対してシーズンの決定を行った。
その結果、実際のパーソナルカラー診断に即したものではなかったが、ほとんどの被験者に対して一意にシーズンの決定が行えた。
また、ドレイピング時の顔色変化はシーズンごとによって特徴を持つことを裏づけており、改良を行えば実際のパーソナルカラー診断に即したシーズンの決定も可能であることが示唆された。
本研究では、実際のパーソナルカラー診断に即したシーズンの決定手法の確立は出来なかったが、5章で述べたような改良を加えていくことで、確立出来ると考えられる。
本手法が確立すれば、現在、人の感覚だけに頼り、行われているパーソナルカラー診断において診断士がいないところでも手軽に診断ができるようになる。服飾・メイク等で色を迷った時、その場で手軽にアドバイスが受けれるようになり、パーソナルカラーをもっと身近に有効活用できるようになると考えられる。また、本システムを用いることによって診断士の育成にも利用できると考えられ、パーソナルカラーシステムがより身近なものになると考えられる。